小規模事業者の事業承継で活用できる制度

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こんにちは!
中小企業診断士で下町のコトラー、船越です。

 

 

  • 相続対策って何をしたらいいのか分からない。。
  • うちの会社(お店)の規模は小さいから別に何もしなくてもいいや。

 

ちょっとお待ちを!

本当に対策しないでいいですか!?

 

もし資産が 3000万円+(600万円×法定相続人)以上なのであれば、相続税がかかってくる可能性がありますし、会社の株を後継者に譲渡するのであれば早めの対策が必要になってきます。

 

でも、相続のことはよく分からないし、何から始めれば良いのか分からない。。

 

ということで、今回も相続の一般的な話にはなりますが、まずは「暦年贈与」の話をしていきたいと思います。

 

 

 

暦年贈与とは?

 

暦年贈与とは生前贈与として1月1日から12月31日までの1年間(暦年)に贈与したものを言います。

 

1年間の生前贈与に対する課税には、110万円の基礎控除額が設けられているため、110万円までの贈与が非課税になります。

つまり、暦年贈与とは生前贈与で毎年110万円までなら贈与税がかからないという制度を利用して、財産を少しずつ贈与していく方法であり、ほとんどの人が簡単に利用できるため、基本的な対策になっているんですね!

 

また、高齢になって慌てたりしなくてもいいように財産を事前に振り分けておくことができることもメリットになります。

 

暦年贈与のポイントは、

 

  • 毎年110万円までが非課税であり、1年間(1月1日~12月31日)に贈与を受ける人が、誰からいくらもらっても、合計で110万円までなら贈与税がかからない
  • 贈与税は贈与を受けた人が対象のため、贈与する人が複数いても、贈与を受ける人が同じであれば、合計金額で判断される
  • 110万円を超えた部分には贈与税がかかり、税率は贈与する人との関係や贈与額によって変わる (10%~55%)

 

贈与の意思表示を明確にするため、贈与契約書を作成したほうがいいことに加え、110万円を超える贈与をした場合は、贈与税の申告が必要になります。

 

相続財産が何億もある方には焼け石に水かもしれませんが、そこまで金額が大きくない小規模事業者の方には有効な対策になります。

 

ただ、難点があるんですね。

というのも、相続税における生前贈与加算に関して、2024年から重要なルール変更がありました。

 

相続税においては、一定の生前贈与(暦年贈与)も相続財産に加算されます。

これまでは、亡くなる3年前までの生前贈与が相続税の加算の対象でした。

 

簡単な例えになりますが、10年間、毎年100万円の生前贈与をしており、合計1,000万円贈与して今年に亡くなった場合、過去3年間の贈与は無かったものとして300万円は相続財産額にプラスされるんです。

 

ただ、700万円には贈与税も相続税もかからなかったんですね。

しかし、2024年1月以降、この期間が7年間に延長されたのです!

 

つまり、上の例で言いますと、300万円ではなく700万円の贈与が無かったものとして相続財産にプラスされてしまうんですね。
*2024年分から段階的にプラスされるのですが、仮に2024年~2031年の7年間暦年贈与をして2031年に亡くなった場合、2024年~2028年の4年分は100万円を差し引いた金額を持ち戻し、2028年~2031年の3年分は全額持ち戻しになります
*簡略化して説明しているので詳細は専門家にご相談ください

 

 

せっかく暦年贈与をしたことによる節税効果がなくなってしまいますよね。。

なので、暦年贈与を有効活用できる人は下記になります。

 

  1. 贈与者の年齢が若い人 (60歳未満)
  2. 孫やひ孫に贈与したい人
  3. 法定相続人以外に贈与したい人

 

1は例えば、20年間の暦年贈与をすれば13年分は相続税がかかりませんが、7年間で亡くなれば、すべての贈与が持ち戻しになります。

 

そして2,3ですが、理由は孫もひ孫も法定相続人ではないため、年間110万円以内の暦年贈与には相続税がかからないんです。

なので、法定相続人以外にも暦年贈与を活用できますし、実際に複数の孫に生前贈与(暦年贈与)する方もおられます。

 

 

 

相続時精算課税とは?

 

そして、「相続時精算課税制度」があります。

 

相続時精算課税制度とは、原則「60歳以上の両親(もしくは祖父母)」から「18歳以上の子供(もしくは孫)」に対して、生前贈与をした際に選択できる贈与税の制度です。
*贈与が令和4年3月31日以前の場合は、子や孫は20歳以上であることが要件

 

相続時精算課税を選択すれば、最大2,500万円(特別控除)まで贈与税を納めずに贈与することができ2,500万円を超過した贈与財産(種類に制限なし)については贈与税の税率が一律20%となります。

ただし、相続時精算課税制度を選択して贈与した財産については、贈与者の相続発生時(死亡時)の相続財産に持ち戻して、相続税額の計算を行います。

 

つまり、贈与したものは全額、相続時にリセットされて相続税として計算されるわけですね。

 

例えば、生前贈与を2,500万円行い、残り3,000万円の相続財産がある場合。

2,500万円に贈与税はかかりませんが、相続時に生前贈与の2,500万円+3,000万円(残りの相続財産)の合計5,500万円に相続税が計算されるということです。

 

 

何のメリットがあるの?

結局、贈与税がかからないけど相続税で取られるだけでしょ!?

 

という声が聞こえてきそうです。笑

 

そうなんです!

今まではただ単なる税金の先延ばしであり、あまりメリットは感じられないため、活用する人はほとんどいませんでした。

 

なので、2024年から改定され、暦年贈与と同じく年間110万円の基礎控除額が加わったのです!

 

例えば、2024年に70歳の父から40歳の息子に相続時精算課税制度を適用して3,000万円の贈与を行ったとします。

 

贈与税の計算式は、

(課税価格3,000万円-基礎控除額110万円-特別控除額2,500万円) × 税率20%

となるため、贈与税額は78万円となります。

 

 

 

では改めて、相続時精算課税のメリットをご紹介しますね。

 

  • 特別控除の2,500万円に加え基礎控除の年間110万円には持ち戻しがない
  • 贈与税の超過分税率が一律20%
  • 早期に財産を贈与でき収益物件を贈与すれば相続税対策になる
  • 値上がりが予想される財産を贈与すれば相続税対策になる

2,500万円に加え年間110万円には持ち戻しがない

 

前述しましたが、相続時精算課税制度の最大のメリットは、最大2,500万円の特別控除があるということです。

 

しかもこの特別控除額は、贈与者が死亡するまでに贈与した累計の贈与額に適用できます。

なので、一度に2,500万円の贈与をした場合にも適用できますし、数年間の複数回にわたって合計2,500万円の贈与をした場合にも適用できるんですね!

 

また、令和6年1月1日以降の贈与では、相続時精算課税制度を選択した場合でも110万円の基礎控除を適用でき、基礎控除を適用してから特別控除を適用します。

特別控除と基礎控除は別であり、基礎控除の年間110万円まではカウントされず、年間110万円を超えた額の累計2,500万円まで贈与税がかかりません。

 

そして、暦年贈与と違い、基礎控除額110万円までは 7年間の持ち戻しがなく相続税には含まれません。

 

 

これはかなり大きい効果ですね!

暦年贈与では110万円を数年間にわたって贈与しても、7年後に亡くなればせっかくの努力が水の泡(法定相続人に限る)になります。

 

相続時精算課税にはその7年縛りがないため、若くない(失礼ですみません笑)小規模事業者にも活用できる制度になります。

 

 

贈与税の超過分税率が一律20%

 

相続時精算課税制度では、原則として特別控除の2,500万円までは贈与税がかかりませんが、2,500万円を超えた部分については、贈与税がかかります。

 

この超過分の贈与税の税率は、一律20%と定められています。

これは、贈与する金額にかかわらず、2,500万円を超えた部分にはすべて20%の税率が適用されるということです。

 

一方、暦年課税の場合、贈与する金額に応じて税率が段階的に上がっていく累進課税が採用されています。

通常、暦年課税で一度に3,000万円を贈与すれば税率は45%ですが、相続時精算課税制度だと税率は約20%となり、その結果、贈与税額に900万円以上の差が出るんですね!

 

このように、相続時精算課税制度を利用することで、暦年課税と比較して大幅に贈与税を節税できるケースがあります。

 

また、相続時精算課税で支払った贈与税は相続時に相続税として再計算され、払いすぎた場合は戻ってくるため、たとえ先に贈与税で払いすぎても損はしません。(先にお金が出ていくことはデメリットかもしれませんが。。)

 

 

ちなみに暦年贈与では相続税がマイナスになっても還付されません。

なので、次項でお話しますが、先に渡してしまった方が良いケースもあります。

 

 

早期に財産を贈与でき収益物件を贈与すれば相続税対策になる

 

相続時精算課税制度ができた背景には、主に以下の2つの目的があります。

 

  1. 親や祖父母から子供や孫へ財産を早めに移転することで、若年層の消費意欲を高め経済を活性化させたい
  2. 相続税の納税が難しい状況にある人に対して、生前贈与を通じて相続税の負担を軽減することができる

 

以上を踏まえ、2,500万円までであれば贈与税を支払うことなく贈与を受けることができ、超えた分も約20%という定率の贈与税となるため、特に賃貸マンションなどの収益物件を早期に贈与する場合に大きなメリットを享受できるんですね。

 

そのメリットとは、相続時精算課税制度を選択して収益物件を贈与した場合、相続時に相続税の課税対象となるのは贈与した収益物件だけで、その後の家賃収入等を課税対象に含める必要がないことです。

仮に贈与者が収益物件を所有したまま亡くなって相続が発生した場合、家賃収入もまた相続財産となるため、相続発生時には「収益物件+家賃収入」が相続財産として課税対象になります。

 

このように、相続時精算課税制度を利用して先に贈与することで、相続税の額を大幅に減らすことができます。

 

 

値上がりが予想される財産を贈与すれば相続税対策になる

 

相続時精算課税で贈与した財産は、相続発生時に相続財産として持ち戻して再計算がされるのですが、すでに支払った贈与税がある場合は、相続税から控除されます。

ただ、相続財産への持ち戻し計算では、贈与した時の時価により評価されるんですね!

 

例えば、有価証券を時価1,000円のときに贈与した場合、贈与者の相続発生時に時価1万円に高騰していたとしても、逆に100円に急落していたとしても、贈与時の時価1,000円で評価されます。

 

この時価の差を利用して、値上がりが予想される財産を贈与しておけば、相続財産を実質的に減らして相続税を抑えることができるんです。

ただし、相続発生時に贈与された財産が値下がりしていた場合は、逆に相続税が高く計算されますので、特に株には注意が必要になります。

 

上場企業なら株の値段はどうなるか分かりませんが、小規模事業者には有効です。

退職金を支払う、資産の損失を計上する等でわざと株価を下げることができるのので、株価を下げたときに一気に贈与することも可能になります。

 

 

 

暦年贈与と相続時精算課税はどっちがいい?

 

ここまで暦年贈与と相続時精算課税の話をしてきましたが、じゃあどっちがいいのでしょうか?

 

相続時精算課税の方が、暦年贈与である7年間の持ち戻しがないし、 暦年贈与と同じく 110万円の基礎控除額 があるため、有利だと思うかもしれませんね。

なので、私も小規模事業者の社長には相続時精算課税をおすすめしたりします。

 

ただ、相続時精算課税にもデメリットがあります。

 

まず一つ目は手間です。

相続時精算課税制度を選択した際には、「相続時精算課税制度選択届出書」や 「贈与税の申告書」 等の必要書類を税務署に提出して申告する義務があります。

 

そして、贈与者が亡くなるまで継続されるため、贈与があった場合は毎年申告が必要です。

ただし、令和6年1月1日以降の贈与では基礎控除を適用できるため、年間の贈与額が110万円以下であれば申告は不要となります。

 

 

そして2つ目ですが、相続時精算課税制度を使うと「小規模宅地等の特例」が使えなくなることです!

 

詳細は次項でお話しますが、「小規模宅地等の特例」とは、亡くなった人が自宅として使用していた土地は、配偶者もしくは亡くなった人と同居していた親族が相続すると8割引きの評価額で計算してもいいというものです。

相続時精算課税を適用した宅地については、小規模宅地等の特例が適用できません。

 

 

そして最後のデメリットは、不動産を生前に贈与した場合、「登録免許税」や「不動産取得税」など、贈与税や相続税以外に発生するコストが増えるというものです。

こちらも税理士さんにきちんと計算してもらった方が良いですね。

 

 

あと、相続時精算課税制度と暦年贈与は併用ができません。

 

なのでどちらか選ぶ必要があるのですが、贈与者の相続発生時の相続財産の総額(相続時精算課税制度を選択した贈与財産+その他の相続財産)が、相続税の基礎控除の範囲内の人は、相続時精算課税制度を使った方がいいと一般的に言われています。

 

相続税の基礎控除額とは、相続税が課税されるかどうかのボーダーラインのことで、「3,000万円+(600万円×法定相続人数)」の計算式になります。

 

例えば、4人家族で父の相続が発生した場合、法定相続人は3人(配偶者と子供2人)となり、相続税の基礎控除額は4,800万円となります。

この場合、「相続時精算課税制度の贈与財産+その他の相続財産」が4,800万円を下回ると予想される場合、相続時精算課税を選択して生前贈与をしても相続税はかかりません。

 

なので、上記に当てはまる方には良いかもしれませんね。

 

 

また、前述しましたが、賃貸マンションなどの収益物件を所有している人には、生前贈与によって先に家賃収入を得られるうえ、家賃収入は相続税にも加算されません。

 

逆に、一般的に暦年贈与が有効な方は、60歳未満の人、小規模宅地等の特例を使いたい人、そして、孫やひ孫、法定相続人以外に贈与したい方になります。

 

相続時精算課税制度の贈与者は60歳以上でなければなりません。

なので、50代や40代等の若い社長には暦年贈与のみが選択肢になります。

 

その場合は、60歳になってから相続時精算課税に変更するのかを考えればいいと思います。

 

 

 

小規模宅地等の特例とは?

 

「小規模宅地等の特例」とは、亡くなった人が自宅として使用していた土地は、配偶者もしくは亡くなった人と同居していた親族が相続すると8割引きの評価額で計算してもいいというものです。

 

なんと!

1億円の土地であれば、2,000万円の評価額でいいんですよ!

 

びっくりですよね。笑

 

ただし、面積に制限があります。

居住用であれば330㎡(100坪)、事業用なら400㎡(121坪)までとなっているんですね。(制限を超えた場合は通常の評価額で計算)

 

この特例が使えるかどうかで、めちゃくちゃかわってきます!

基礎控除を加えれば数千万円の相続税がゼロ円になる可能性も十分ありえますからね。

 

ただ、小規模宅地等の特例を使えるのは、「配偶者」と「亡くなった人と同居していた親族」に限られます。

 

例えば、お母さんが自宅を所有しており (お父さんは亡くなっている) 、次男がお母さんと同居、長男が同居していない場合。

お母さんから次男に自宅を相続させれば8割引きになりますが、長男だと8割引きになりません。

 

また、長男と次男それぞれ1/2共有で相続した場合は次男分は8割引きですが、長男分はそのままの評価額になります。

そして、同居期間ですが特に制約はなく、上の例で言うと長男がお母さんが亡くなるほんの少し前から同居を始めても問題ありません。

 

でも、お母さんが亡くなってからすぐに元の家にというわけにはいかないんです!

相続開始後 10ヶ月まで、自宅に継続して住み続けることが条件になります。

 

そりゃそうですよね。。

亡くなる1日前から同居、亡くなった次の日に帰って8割引きになるのであれば、誰でもやりますから。

ただの帰省だし、そんなうまい話なんてあるわけない。笑

 

バレないと思って、嘘はダメですよ!

ご注意を!!

 

 

 

小規模宅地等の特例のお話をしましたが、孫やひ孫等は法定相続人でないため、相続時精算課税は使えませんし、法定相続人以外には相続税の持ち戻しもありません。

なので、法定相続人である後継者には相続時精算課税制度を使い、孫やひ孫等の法定相続人以外には暦年贈与を行うことも可能です。

 

ちなみに、孫やひ孫等の法定相続人以外に贈与しても遺留分が発生しないため、遺留分対策として活用する方もたまにおられます。

 

 

 

最後に

 

 

今回は暦年贈与と相続時精算課税を開設しましたが、両方ともにメリットデメリットがあります。

用は無理なので、税理士さん等とよくご相談していただければと思います。

 

ただ、何より重要なのは相続でもめないことです!

もめると対策どころではなくなります。

 

そして、相続ばかりで経営をおろそかにしないことも重要です!

相続に力を入れすぎて経営がボロボロになれば、意味がありませんし、後継者もたまったものではありませんから。。

 

今回の記事が少しでも参考になれば嬉しいです!

 

親族内承継で相続のことばかり考えていませんか?

 

 

 

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